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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)11784号 判決

原告

河崎光雄

代理人

有吉昭弥

被告

株式会社陶陶酒本舗

外二名

代理人

稲葉隆

主文

被告株式会社陶陶酒本舗、同中根儀光は各自原告に対し金一、五〇二、一九九円、被告毬山利久は原告に対し金七五一、五五九円および右各金員に対する昭和四三年一〇月二六日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一  請求の趣旨

一、原告に対し各自被告株式会社陶陶酒本舗(以下被告会社という)、同中根儀光(以下被告中根という)は、二、八一五、三八八円、被告毬山利久(以下被告毬山という)は一、八三〇、三一八円および右各金員に対する昭和四三年一〇月二六日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二  請求の趣旨に対する答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三  請求の原因

一、(事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

なお、この際原告はその所有に属する自家用貨物自動車を損壊された。

(一)  発生時 昭和四三年三月二三日午前五時三五分頃

(二)  発生地 栃木県小市市城山町二丁目一番二六号先国道五〇号線交差点

(三)  加害車 自家用普通貨物自動車(足立四ふ八三三一号以下甲車という)

運転者 被告中根

(四)  被害車 自家用普通貨物自動車(足立一に七八一二号以下乙車という)

運転者 原告

被害者 原告

(五)  態様 原告が乙車を運転して、国道四号線を東京方面より宇都宮方面に向け、青信号に従い前記交差点を進行中、国道五〇号線を桐生方面より小山駅方面に向う被告中根運転の甲車が赤信号を無視して、時速六〇粁以上に加速して、同交差点を通過しようとして、甲車右側車体部分を乙車左前部に衝突させ、乙車を横転炎上せしめた。

(六)  被告者原告の傷害の部位程度は、次のとおりである。

鞭打ち傷害両前腕の右手関節挫傷、臀部打撲傷、両下腿挫創及び打撲傷。昭和四三年三月二三日医療法人博愛会杉村病院で受診、同月二五日から同年五月一二日まで医療法人社団栄和会荒川病院に通院、同月一三日から同年六月一二日まで三一日間同病院に入院、同月一三日から同年一一月二六日まで同病院に通院加療した。

二、(責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(一)  被告会社は、甲車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告毬山は甲車を所有し自己のため運行の用に供していたものであるから自賠償三条による責任。

(三)  被告会社は、被告中根を使用し、同人が被告会社の業務を執行中、後記のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項による責任。

(四)  被告中根は、事故発生につき、次のような過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

交差点の赤信号を無視して通過しようした過失。

三、(損害)

(一)  治療費 一八七、四五九円

(1) 二、五七九円 杉村病院治療費

(2) 四〇、二〇〇円 昭和四三年三月二五日から同年五月一二日までの荒川病院の通院治療費

(3) 一〇三、二六〇円 昭和四三年五月一三日から同六月一二日まで荒川病院の入院治療費

(4) 一二、八一〇円 昭和四三年六月一三日から同月三〇日までの荒川病院の通院治療

(5) 一二、一三〇円 昭和四三年七月一日から同月三一日までの荒川病院の通院治療費

(6) 一一、一三〇円 昭和四三年八月一日から同年九月一二日までの荒川病院の通院治療費

(7) 五、三五〇円 昭和四三年九月一三日から同年一一月二六日までの荒川病院の通院治療費

(二)  入院付添費用 三四、一〇〇円

原告の入院期間中、原告の妻が付添、これに要した費用。

(三)  休業損害

原告は、右治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ八〇八、七五九円の損害を蒙つた。

(1) 原告は昭和四二年一二月四日から、東洋運送株式会社の下請として、独立して自己所有の乙車をもつて、運送事業に従事して以来

①昭和四二年一二月 一八六、〇四八円

②昭和四三年一月 一一〇、四〇四円

③昭和四三年二月 一四五、八一〇円

④昭和四三年三月 一一二、八八五円

計 五五五、一四七円

(2) 右収益を上げるに必要な経費は次のとおりである。

(イ) 燃料費

①昭和四二年一二月 一六、五九四円

②昭和四三年一月 二六、八三八円

③同年二月 八、四九九円

④同年三月 一〇、一一四円

計 六二、〇四五円、一月平均一五、五一一円

(ロ) 乙車修繕費

①昭和四三年一月 九、九五〇円

②同年二月 二、九四〇円

③同年三月 一〇、三二五円

計 二三、二一五円、一月平均七、七三八円

(3) 原告の一月平均純益は前記収益一三八、七八六円から経費二三、二四九円を控除した一一五、五三七円となるところ原告は本件事故により事故当日の昭和四三年三月二三日から転職した昭和四三年一一月七日まで少くとも、七カ月間就労不能の状態におかれたので八〇八、七五九円の損害を蒙つた。

(四)  物損 九八五、〇七〇円

(1) 乙車炎上廃車による損害五一一、四三〇円

乙車の時価五三四、四三〇円からスクラップ代二三、〇〇〇円を控除したもの。

(2) 作業車による乙車牽引費用五、〇〇〇円

(3) 乙車に積載運搬中の東洋製缶株式会社の新製品カゴメキヤップ不良化による損害 四六八、六四〇円

原告は右会社に右損害を賠償したので同会社に代位する。

(五)  慰藉料 一、〇〇〇、〇〇〇円

(六)  弁護士費用 三〇〇、〇〇〇円

本訴による弁護士費用として原告は原告代理人に三〇〇、〇〇〇円を支払う旨約した。

四、(損益相殺)

右損害金合計三、三一五、三八八円のうち原告は強制保険より、入院治療等として五〇〇、〇〇〇円を受領した。

五、(結論)

ところで、被告らは右損害金の支払をしないので被告毬山に対し(四)を除き請求の趣旨記載の判決を求める。

第四  被告の事実主張

一、請求の原因に対する答弁

(一)  訴状請求の原因第一項の(一)記載の事実は認める。

同第一項の(二)記載の事実は認める。

同第一項の(三)記載の事実は認める。但し、加害車被害車の区別は否認する。

同第一項の(四)記載の事実は認める。但し、加害車被害車の区別は否認する。

同第一項の(五)記載の事実中、原告が青信号に従つて進行であつたこと、甲車が赤信号を無視して時速六〇粁以上を加速したこと、甲車を乙車に衝突させ、乙車を横転炎上せしめたことは否認し、その余の事実は認める。

同第一項の(六)記載の事実は不知。

(二)  同第二項記載の事実中、被告中根儀光が被告会社の従業員であることは認めるが、その余の事実は否認する。原告の主張は争う。

(三)  同第三項記載の事実は不知。

(四)  同第四項記載の事実中、原告が強制保険より五〇万円受領したことは認めるが、その余の事実は不知。

(五)  同第五項記載の主張は争う。

二、被告の主張

(一)  被告会社の責任について

原告は、「被告会社は、自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者の責任及び民法第七一五条第一項の責任がある。」旨主張する。

しかし、被告会社には、以下詳述するとおり、右のような責任はない。

(イ) 甲車の所有者は、被告会社でもなければ、被告毬山でもなく、訴外陶陶酒製造株式会社である。即ち、被告毬山は、甲車を所有していたが、昭和四一年一〇月頃甲車を訴外会社に譲渡したので、甲車の所有者は、訴外会社である。しかも、本件交通事故は、被告中根が訴外会社の仕事に従事中発生したものである。従つて、被告会社は、自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者とはいえない。

(ロ) 仮りに、右主張が理由がなく、被告会社が自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者であると仮定しても、次の理由により同法第三条但書により、被告会社には、その責任がない。

(1) 本件交通事故は、原告の過失に基づいて発生したものである。即ち、被告中根は、佐野方面から小山駅方面に向つて進行してきたのであるが、時速は約四〇キロメートルで本件交差点の約四〇メートル手前で信号機が赤から青に変つたので、本件交差点に入つた。ところが、乙車が約七〇キロメートルの速度で進入し、甲車の車体の右側の運転座席の後部に追突したのである。

このように、本件交通事故は、乙車が赤信号を無視し制限速度を超過した運転をしたため発生したものであつて、被告中根の過失に基づくものではなく、原告の過失に基づき発生したものである。

(2) 被告会社は、甲車の運行に関し注意を怠つていないし、かつ、甲車には構造上の欠陥、または機能の障害もなかつた。

(ハ) なお、前記のとおり、被告中根は被告会社の事業の執行中本件事故を発生させたものではないし、かつ、被告中根は本件事故の発生につき、何等の過失もないから、被告会社は民法第七一五第一項の責任もない。

(二)  被告毬山利久の責任について

原告は、「被告毬山利久は、自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者の責任がある。」旨主張する。

しかし、被告毬山には、以下詳述するとおり、右のような責任はない。

(イ) 前記(一)(イ)記載のように、被告会社と同じく、被告毬山も自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者とはいえないから、同法による責任はない。

(ロ) 仮りに、右主張が理由がなく、被告毬山が自動車損害賠償保障第三条の運行供用者であると仮定しても、前記(一)(ロ)記載のように、被告会社と同じく、被告毬山も自動車損害賠償保障法第三条但書により、その責任はない。

(三)  被告中根儀光の責任について

原告は、「被告中根儀光は、民法第七〇九条の責任がある。」旨主張する。

しかし、被告中根には、次のとおり、右のような責任はない。

本件事故は、前記(一)(ロ)(1)記載のとおり、原告車の唯一の過失に基づいて発生したものであるから、被告中根には、民法第七〇九条の責任はない。

第五  証拠関係〈略〉

理由

一請求原因第一項(一)ないし(四)の事実は当事者に争いがない。〈証拠〉によれば、原告は本件事故により鞭打ち傷害、両前腕、右手関節挫傷、臀部打撲傷、両下腿挫創及び打撲傷の傷害を受け、昭和四三年三月二三日杉村病院で治療を受け、同月二五日より同年五月一三日までの間三五回に亘り荒川病院に通院し、同日より同年六月一二日まで三一日間同病院に入院し、同日より同年一一月二六日まで六〇回に亘り同病院に通院したことが認められる。

二請求原因第二項のうち被告中根が被告会社の従業員であることは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば被告会社は動植物の蒸焼並びに黒焼製造販売、動植物の粉砕加工、医薬品の販売並びに雑酒の販売、化学薬品の販売、飲食店の経営等を目的として昭和二三年三月五日被告毬山が代表取締役として設立された会社である。この頃から被告毬山個人の経営する「陶々酒研究所」なるものがあり、陶々酒の製造に当つていたが、昭和四一年一〇月一日、被告毬山を代表取締役とし、右「陶々酒研究所」より別法人の訴外陶陶酒製造株式会社(以下訴外会社という)を設立し、主として陶々酒の製造を業務としたが、通称「研究所」と云われた。それ以後被告会社は陶々酒の販売を担当するようになつた。この他に本件事故当時被告毬山個人の所有の土地建物を用い「ジャパンスネークセンター」と称するものが群馬県新田郡藪塚町にあり、右「ジャパンスネークセンター」には当時従業員は一五〜一六人いたが、これは被告会社の社員と、訴外会社の社員より成つていた。甲車はもと被告毬山の所有のもので、登録は同被告の名義となつており、同被告の経営する「陶々酒研究所」が使用していたが、昭和四一年一〇月一日訴外陶陶酒製造株式会社が設立されて以後は右訴外会社に譲渡されたが、登録名義は被告毬山のままであり、主として、同訴外会社が使用することになり、「ジャパンスネークセンター」に自動車を置き、海蛇の水槽に入れる海水の運搬に用いていた。甲車の車体には「陶々酒研究所」の名称が書いてあつた。

右事実によれば昭和四一年一〇月一日以後訴外陶々酒製造株式会社の設立された後は、右訴外会社は被告の陶々酒の製造部門を主として受け持つにいたつたが、従業員の構成も混然としており、かつ、被告毬山が代表取締役を兼ねており、実質的には同一の会社とみられる関係にあり、さらに被告毬山個人所有の「ジャパンスネークセンター」の従業員も、被告会社と訴外会社との従業員より構成されており、本件事故当時の運転も被告会社社員中根によるものであるといつた事情があるため、被告会社は甲車の運行支配をなしていたことは十分認められるところであり、かつ、被告毬山においても被告会社、訴外会社の代表者であり、甲車のもと所有者で、登録上所有者となつており、車体に被告毬山の経営する「陶々酒研究所」の名称を書かせていたことにより、なお甲車の運行供用者の地位にあつたものと認められる。従つて、被告会社、被告毬山は自賠法第三条により原告の人的損害を賠償すべき義務がある。

さらに、右事実によれば被告中根は被告会社の従業員であり、海水の運搬の仕事は実質的には被告会社の業務とも観られるのであるから、被告会社の事業執行中行為であるというべきで、民法第七一五条第一項により、被告会社は物的損害につき賠償義務がある。

三〈証拠〉を総合すれば次の事実が認められる。

(一)  本件交差点は、古河・東京方面から宇都宮方面に向う車道幅員10.1米、両側に1.8米の歩道のある道路(国道四号線小山バイバス以下A道路という)と、板本方面から国鉄小山駅方面にいたる車道幅員12.0米、両側に六米の歩道のある道路(国道五〇号線以下B道路という)がやや斜に交差するところで、三点式自動信号機の設置がある。この信号機のサイクルは五〇秒で、A道路の青色信号は二八秒、黄色信号は五秒であり、B道路の青色信号は一二秒黄色信号は五秒であつた。交差点の見通しはよくない。

(二)  原告は乙車を運転しA道路を宇都宮方面に向つて進行し本件交差点の手前約一三〇米のところで信号が赤であつたので徐々にスピードを下げ、約一〇〇米手前のところで信号が青に変つたのを確認したので再びスピードを上げ四〇〜四五粁で本件交差点に入り、交差点に入つたところで左方から進行して来る甲車を発見し、右にハンドルを切りブレーキを踏んだがスリップ痕を残すことなく交差点内で甲車に衝突された。

(三)  被告中根は甲車を運転しB道路を小山駅方面に向つて時速約四〇〜四五粁で進行し信号を十分確認することなく交差点に進入し、乙車に甲車を衝突させた。

右認定に反する〈証拠〉は、前掲各証拠に照らし措信し難い。そして、右認定事実によれば被告中根には赤色信号を見落し交差点に入つた過失が認められるので、被告らの免責の抗弁は採用できない。右認定事実によつて考えると原告には青色信号に従つて交差点に入つているのであるから、さらに徐行すべき注意義務はなく、甲車を発見したのが原告が交差点に入つてからであることも、交差点の構造上やむを得ぬものと解されるので、原告に運転上の過失を認めることができない。

四(一)  〈証拠〉によれば、原告は本件事故により杉村病院および荒川病院の治療費として原告主張のとおり一八七、四五九円を要したことが認められる。

(二)  〈証拠〉によれば、原告が昭和四三年五月一三日より同年六月一二日まで荒川病院入院中付添看護が必要であり、原告の妻河崎加代子が付添をなしたことが認められ、家族にあつてもその付添料として被告らに賠償請求ができるものと解され、その金額は一日一、一〇〇円が相当と認められるので、三四、一〇〇円となる。

(三)  〈証拠〉によれば原告は従前より運送会社に勤務し運送の仕事をしていたところ、昭和四二年一二月四日から独立して運送の営業を始め、乙車を使用して訴外東洋運送株式会社と専属的な下請の運送を行つていたが、まだ道路運送法第四条第一項の事業免許を受けていなかつたこと、本件事故により一に認定した受傷の治療のため昭和四三年三月二三日より昭和四三年一一月七日日本精機に勤めるまで約七カ月間休業した事故前四カ月の東洋運送株式会社より運賃として得た収入は原告主張のとおり五五五、一四七円(一月一三八、七八六円)であり、この間燃料費として四カ月で六二、〇四五円(一月平均一五、五一一円)、乙車修理費二三、二一五円(一月平均七、七三八円)であつたこと、原告は事業を開始してから日も浅いので税金関係の申告をしていなかつたことが認められる。そこで被告らは、原告は自動車運送事業の免許を受けていないから、仮りにそれによつて利益を得たとしても保護するに値しないと主張する。しかしながら、自動車運送事業の免許をうけていないからといつて、原告が他人と運送契約を締結することが私法上無効となるものでもなく、運賃支払を請求し得る権利を取得するものであり、かつ、道路運送法第四条一項の事業免許制の根本趣旨は、事業の公共性に鑑み、輸送秩序の維持と不当競争の防止を図ることにあり、事業による営利自体を直接規整しようとするものではないから、原告の無免許営業を目して当然反道徳的な醜悪な行為ということはできないし、その違法性は微弱であつて、その営利は法の保護に値しないものとはいえないと解する(大阪高判昭四三・三・二八判時五二〇・五六参照)。従つて、原則的には無免許運送事業者の逸失利益は肯定すべきであるが、無免許の事実は収益の確実性、永続性の点において免許を受けている者に比べ低いものと解すべきであるので、逸失利益の算定にあたりこの点を考慮されねばならないと解する。以上の観点より原告の事故のない場合の一カ月の収益を予想するとき、事故前の一カ月平均一三八、七八六円の運賃収入から、原告の主張する燃料費、修理費を控除するのみならず、乙車の償却費、その他の諸雑費をも控除されねばならず、さらに無免許事業であることを考慮し一カ月の純収益を七万円とみるを相当と認める。従つて、七カ月間の休業による損失は四九万円となる、

(四)(1)  〈証拠〉によれば原告は昭和四二年一二月に乙車を二年位使用した中古車として約四〇万円位で購入し、エンジンを取り替えたり幌を取りつけたりし改良を加えていたが、本件事故により使用不能程度に破損され、スクラップとしたこと、事故後城南いすゞモーター株式会社の見積では六四年式エルフは二〇万円とされていること、乙車を廃車にしスクラップ代として二三、〇〇〇円を取得したことが認められ、この事実によれば事故当時の乙車の価格はエンジン、幌等の改良分を含め三〇〇、〇〇〇円とみるを相当とし、これより二三、〇〇〇円を控除すれば二七七、〇〇〇円となる。

(2)  〈証拠〉によれば原告は乙車の牽引のため五、〇〇〇円を支払つたことが認められる。

(3)  〈証拠〉によれば、原告は事故当時の乙車の積荷であるカゴメキャップの破損による損害賠償として東洋運送株式会社に対し四六八、六四〇円支払つたことが認められ、本件事故と相当因果関係が認められる。この点被告は原告は無免許運送事業であるので賠償義務がない旨主張するけれども採用し難い。

(五)  前認定の原告の受傷の程度、入通院の期間等一切の事情に照らし原告の受くべき慰藉料は四〇万円をもつて相当と認める(入院につき一〇万円、通院六カ月につき三〇万円)。

(六)  従つて原告の人的損害は(一)ないし(三)、(五)の合計一、一一一、五五九円となるところ、これに対し自賠責保険より原告は五〇万円の給付を受けたことを自陳するところであるのでこれを控除すれば残額は六一一、五五九円となり、物的損害は(四)の合計七五〇、六四〇円となる。

(七)  本訴提起に際し支払われた弁護士費用のうち被告らに賠償させるのは一四万円をもつて相当と認める。

五よつて本訴請求のうち被告会社、同中根に対し一、五〇二、一九九円、被告毬山に対し七五一、五五九円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年一〇月二六日以降支払済みにいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分を正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条第九三条仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し主文のとおり判決する。(荒井真治)

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